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朝、小鳥のさえずりで目を覚ます。
見慣れたテントの天井と、俺を覗き込む緑の瞳。
ゆっくりと体を起こすとずきりと刺される様に頭が痛んだ。
「…大丈夫?」
「大丈夫…じゃない」
差し出された皮袋の水を喉へと流し、上着を羽織ると堪らず額を押さえて小さく唸った。
どうやらナミラの声を聞いた事は信者の既に知るところらしい。
テントを張った後、中へ俺を運び込んでくれたのもその手伝いがあっての事。
…アンガとやらに行かない訳にもいかなくなったな、なんとなく。
世話になったついでにもう一つ、と馬の面倒を頼むと、一先ずはそもそもの目的地へと向かうべく道なき道へ歩き出した。
フロストファイア洞穴。
寒いのか熱いのか分からないが…誰がつけたんだこんな名前。
…ゾンビはおろか人の姿もない、襲い掛かってくるのはネズミや狼だけとなれば人為的な罠もないだろう。さほど苦労する事はなさそうだと先を急ぐ。
やがて開けたところに出れば、洞窟の中にしては不自然な冷気が溜まっている事に気付いて足を止める。
不穏な気配にゆっくりと奥へと進めば、凍て付いた鉄の扉が自然の岩で出来た壁に埋め込まれているのが見えた。
「何だ、これ…?」
「触らないで!」
手を伸ばした瞬間、制止の声が上げられ身を竦ませる。
「こんなに凍ったものなんて触ったら、皮膚がくっついちゃうよ」
そう言いながら見慣れない青い粉を扉へと掛けていく。
後になって聞いたら「おにいさんちゃんと本読んでなかったでしょ」との小言と共に、精製されたフロストソルトというものだと教えてもらった。
「さ、いいよ。行こう?」
オニオンに促され、凍りついた扉へ手をかける。
「……外?」
また陰鬱な洞窟が続くのかと思えば、出た先は雪深い森の中。
そっと吹き付ける風は冷たく、帷子のコート越しに体力が奪われていくのを感じた。
と──
猛然と襲い掛かってくる氷の巨人。
…ガーディアンはギャリダンと共に凍り付いたんじゃなかったのか?
疑問に答えるものもなく剣とオニオンの魔法でどうにかそいつを仕留めると、その先には物語がただの御伽話ではないことを示す光景が広がっていた。
「…ギャリダンは永遠に水の湧き出す水差しをその手に取った。その瞬間、守護者が現れて騎士は防戦一方。振り上げられた豪腕に堪らず水差しを頭上へと掲げて盾にしたはいいけど…」
「無情にも水差しは砕かれて、途端にギャリダンと守護者は森もろとも凍り付いてしまった、だったか」
「大体そんな感じかな。そして僕らの仕事は、その時にギャリダンが流した無念の涙を探すこと」
………。
「………涙って、小さいよな」
「……そうだね」
「…冷気が濃すぎて霧のようだな」
「うん。でもただの霧と違って長時間居たら凍死するよ」
「…………」
「頑張ってねv」
orz
何故俺は防寒具の一つも持ってこなかったのか。
何故俺は素肌に帷子のコートなんて羽織っているのか。
何故俺は腹まで出しているのか。
色々と、これまでで一番人生について考えた時間だったと思う。
振り返れば良く死ななかったな、と感心するばかりだ。
どうにかこうにか雫の形をした宝石を5粒、雪の中から拾い上げるともうこんな場所に用はない。
今はとにかくここから離れたい、熱い風呂で眠りたい。
その一心で、恐らくは永遠とこの場所、閉ざされた氷の中で守護者と戦い続けるのだろうギャリダンの元を後にした。