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「さて…翻訳も時間が掛かるそうだし、次はどうする?」
帝都、アルケイン大学の魔術師に首尾よく書籍の断片の解読を依頼したところで隣を歩くOnionへ問い掛ける。
「んー…ほら、結構前にレヤウィンでギャリダンの涙っていう宝石がどうこうって頼まれたでしょ。それに詳しいのも大学の人じゃなかった?」
「そういえば……そんな事も言ってたか?」
「もう、忘れっぽいなぁ…ほら、行くよ。僕もうその人には会ってきたから」
「え、ちょ…行くってどこに…」
「本屋だよ、黄昏の騎士って本を読めば分かるんだって」
「えぇ…?」
いまいち要領を得ないが…早足に商業区へ向かい歩き出す背を慌てて追いかける。
宝石にも本にも縁の無い俺としては彼女に詳しい説明を求めるよりも、実際に体を動かした方がきっと早いのだろう。
本屋は帝都には唯一。趣味を仕事にした様な店主へ本のタイトルを告げればすぐさまそれが手渡される。
幾らかの金貨と引き換えに本を開けば、干ばつに苦しむ領民の為に旅立ち、秘宝を手にしたものの帰る事の叶わなかった騎士の物語が従者の視点で綴られていた。
「えーと…ナミラの神像の少し南だね。ついでにそこにも寄ってみたら?山の中だから馬を留めておく場所も必要だし」
「ナミラの…?前に偶然通りかかったら信者に追い払われた筈じゃ」
「そりゃおにいさんは無駄に美形だからね。ナミラは蜘蛛とかナメクジとか…そういう気色悪いものを司ってる存在なんだよ」
「無駄にってお前…。大体、顔が原因ならどうしようもないだろ」
「大丈夫、ほら……これでみっともなく酔っ払ってみせればいいよ」
不穏な台詞と共に荷袋を広げられればそこには酒瓶が数本。
どこの酒場でも見かける安いワインのラベルが覗いて見えた。
「…いや…俺、酒はあまり…それに酔う前提なのk」
「じゃあ馬はどこにおいとくのさ、歩きだなんて絶対嫌だからね、それに山なら一晩休憩する場所もいるでしょ、テントはどこに立てるのさ」
「ちょ…わ、分かった、分かったから…!」
ぐいぐいと言葉で責められれば返す余裕も無く、壁際まで追い詰められたところで思わず了承すれば次に向けられるのはけろりとした笑顔で。
…それを見せられれば何も言えないし、いつも通りの流れでもある。
心の中で深い溜息をつくとナミラの神像へと向かうべく厩舎へと足を向けた。
馬を走らせ約2日。細く見失ってしまいそうな山道をひたすらに上へと向かえば、薄く苔の生えた白磁の像が目に入る。
足元に小鬼を縋らせたローブ姿の女神、ナミラの像だ。
そこはさほど広くはないが平らなスペースに幾つかのベンチ、そして女神の信者が数人ほど像へと祈りを捧げていた。
「さて…帝都を出てから念の為にお風呂も入ってないし(魅力マイナス)、頑張ってね。成功したら水浴びさせてあげるから」
…良い様に使われている気がしないでもない。
が、これは必要なことだと割り切った。…割り切ったぞ。
此方に視線を向ける信者の姿を尻目に安ワインの瓶を取り出し一息に煽る。
一本、二本、三本…四本──…目を口にしたところで、ぐるりと世界が回った。
そして。
「──い……つつ……」
刺す様な寒さで気が付けば、空には既に月と星。
恐らく倒れたんだろう俺をオニオンは運ぶ事が出来なかったか、せめてもの気休めだろう体に掛けられていた毛布を巻きつけながら立ち上がると周囲へ視線を巡らせる。
……未だに視界が滲み、ぐらぐらと揺れる。
「もう…一気に飲みすぎだよ。そういうModが入ってるん──げふん。ゆっくり飲まなきゃ体に悪いじゃないか」
「飲めといったのはおま……」
「ほら、ゆっくり。あと2本しかないんだから」
「ちょっ──」
いつの間にか背後に居た彼女の手により、止める間もなく酒瓶が口に押し込まれる。
既に酸っぱいだけのそれを喉に流し込み、ふらつく足で神像の台座に手を掛ければ不意に頭の中に声が響く。
「え……ぁ……?」
泥に包まれた様に重い頭を持ち上げ、像を見上げる。
アンガに暮らす信者を救おうとする神官をどうこう……回らない頭では理解するのも、記憶するのも困難だが彼女に俺の都合など関係無いようだ。
その為の魔法を授ける、と言われても──
「いや、俺は魔法は……」
無理、と口を開きかけたが、彼女に俺の都合など関係な(ry
次の瞬間頭に流れ込んでくるの、一つの魔法。
…覚えているのはここまで。
アルコールが全身に回ったか、再び俺の意識は闇に沈んだ。